日本話し方センター社長・横田章剛のブログ

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2021年8月13日過剰な表現や曖昧な表現はやめよう!

最近、在宅勤務が増えた分テレビを見る時間が少しだけ増えました。それで改めて気付いたことは、テレビで話している人の言葉遣いには変なものが多い、ということです。特に、政治家の記者会見や道行く一般の人のインタビューなどで、気になる言葉遣いが散見されます。



その典型例が「させていただく」です。特に政治家にこの言葉を使う人が多いのです。多分、言い切った時にそれが実現しないと責任を問われると思って曖昧な表現にしてしまうのでしょう。気持ちは分からないでもないですが、この言葉を聞くと過剰なへりくだりを感じてしまいます。
「万全の対策を取らせていただくことといたします」
「充分な手当てをさせていただきたいと思います」
このような使い方をよく耳にしますが、何とも遠回しな表現で少しも心に響きません。これらは端的に「万全の対策を取ります」「充分な手当をいたします」という表現でよいでしょう。むしろ発言者の強い意志が感じられて好感が持てます。

池上彰さんもこの「させていただく」について、著書「伝える力2」で持論を展開しています。少し抜粋してみます。
『「させていただく」は謙譲語に分類されますが、「そこまでへりくだらなくていいだろう」という場面でも、やたらにへりくだって謙譲語を使うことが多い印象を持ちます。(中略)
俳優さんが映画に出演することに決まったときなど、「この映画に出させていただくことが決まりました。とても光栄です。一所懸命にがんばらせていただきます。」などと言うことがあります。こうした発言も気になりますね。「この映画に出ることが決まりました。とても光栄です。一所懸命がんばります。」で充分に丁寧な言い方ではないでしょうか。』

回りくどい言い方をすると、聞き手はそれを頭の中で余計な言葉をそぎ落として理解せねばなりません。これはかなりストレスを伴う作業ですので、この言い回しを多用されると聞き手はイライラしてしまいます。従って、言葉はシンプルに言う方が伝わりやすくなります。そういう意味で「させていただく」の過剰な使用は、不適切な表現というだけでなく、相手の立場に立った話し方にもなっていないのです。

また、最近「~かな、と思います。」という言葉もよく耳にするようになりました。これは、道行く人へのインタビューなどでよく聞かれます。
「まだ遠出をするのは恐いかな、と思います」
「家にずっといるのはつまらないかな、という気がします」
こうした話しも、
「まだ遠出をするのは恐いです」
「家にずっといるのはつまらないです」
と言った方が気持ちがストレートに伝わってよいでしょう。この「~かな、と」というのも、「恐いの、恐くないの、どっちなの?」と考えさせてしまい、聞き手にストレスを感じさせる言い方です。

「させていただく」も「かな、と」も、適切に使えばよいのですが、上のような使い方は好ましくありません。こうした表現は、話し手が言い切ることにためらいを感じているから使われるのだと思います。確かに私たちは日常、言い切ることを避けるような話し方をよくします。しかし、それでは自分の意思や考えを相手にきちんと伝えることができません。また、上に触れたように、素直に理解できる表現ではないため、聞き手にストレスを与えてしまいます。過剰な表現や曖昧な表現はできるだけ使わないように気をつけたいものです。
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